睫毛内反症
「しょうもうないはんしょう」、いわゆる逆さまつげ。
生まれてこの方、下まつ毛は全部眼球に向いている。 下まつ毛に関する化粧をすることはできないし、ビューラーもきかない、下まつ毛の攻撃で角膜がたまに少し剥がれる、まつ毛が目に入って痛いので、定期的に下まつ毛をピンセットで抜く。 生えかけでチクチク目に入って痛いけど、そういう人生だった。 それが私にとっての普通だった。そういうもんだと思っていた。
今年の春先、花粉症で目がかゆいので眼科に行ったところ改めて「ひどい逆さまつげだろうね」と眼科の先生に言われた。 「これ、抜いてるでしょう。抜かないで我慢できるのならひどい状態と証明できるので、紹介状書いてあげるけどね。だいぶ楽だよ。」
なるほど? 逆さまつげじゃない人生、そういう世界線もあるのかと。
なんだかその未来はとても明るい気がして、頑張って下まつ毛を伸ばすことを決めた。
紹介状を書いてもらうまでの1ヶ月間
ひたすら伸ばした。辛かった。「下まつ毛を抜く」という技を封じられるとこんなに人生辛いのか、と思う1ヶ月であった。
なんとか生活を楽にしたいので、いろんなことを試みた。
- ホットビューラー
- 意味なし
- もう、それどころじゃないくらいまつ毛が目に向いているから。
- 炙り金属
- 意味なし
- ライターで金属を炙って下まつ毛に癖をつけようとした。ホットビューラーの最強版。金属が皮膚に当たって「あっつ!!」ってなるので無理だった。結局ホットビューラーと同じで効かない。
- つけまのり
- 効果覿面。
- 物理的に皮膚に下まつ毛を貼り付ける。 これがかなり効いた。幸いまつ毛は長い方なのでのりでとめるだけのリーチがあったことが功を奏した。
こんだけ逆さまつげに向き合った1ヶ月は初めてだった。そのおかげで、「左の方が逆さまつげがひどいんだな」という事実にも気づくことができた。 なんだかんだ1ヶ月耐えてひっでえ逆さまつげを見せつけた結果、無事紹介状をゲトった。やったー!
紹介受診
結局、良い先生かどうか、それが私の逆さまつげの運命を決める。 今までに「治したいな」と思って色々調べたことはあったが、美容医療と同じで先生ガチャということは知っていた。 保険診療ではあるものの、今後の人生で不便にならない程度には良い見た目でありたい。それをうまいこと汲んでくれる先生であるかどうかが重要なのだ。
ドキドキしながらデカめの病院へ。小一時間ほど待って名前を呼ばれたので先生と対面。
数分喋って確信する。めっっっちゃくちゃに良い先生だ。 気さくで喋りやすく、若すぎず、老いすぎていない。私は運命の勝負に勝利した。
そして手術の日程決めに入った。受診したのは4月の半ばで、5月上旬・5月下旬・6月上旬に登壇の予定が入っている。 ダウンタイムを考えると、1ヶ月は大事な予定がないことが望ましい。 「今すぐにでもできないですか」と言ってみたが、最速で2週間後、どうにも折りが合わないので6月中旬に手術することに決めた。
あと2ヶ月弱、下まつ毛の眼球攻撃に耐える必要があるのではと戦慄したが「それまでの間下まつげ抜いていいですか」と聞いたら「手術の時、まつげが伸びた状態であれば、いいよ」とのこと。 理解のある先生くんで助かった。あと、もうちょっとだけ耐えることにしよう。
手術
なんだかんだ、2ヶ月は高速に過ぎ去り、あっという間に手術日になった。 実は美容医療で二重の埋没はしたことがあったので、大体あんな感じやろ〜とたかを括っていた。...が、流石に当日になるとドキドキ不安ではあった。
軽い診察を終え、いよいよ手術が始まる.........怖い、怖すぎる。やはり普通に手術は怖い。めちゃくちゃに最悪の気分になっていた。
「あの、もう始まりますか?」と、私。
「はい」と、答える看護師。
「やだーーーー!!!怖いーーーー!」と、叫ぶ私。
「はぁ...」と、苦笑いする看護師。
美容医療とは訳が違う。あそこはすごい。怖がる患者になれている。「大丈夫ですよ〜」と、手を握ってくれる看護師がいる。ここはそういう病院ではないのである。
「じゃあ、あの、手鏡でも握ってますか?」と、看護師。だるい患者でほんまスマン......。
嘘です怖くないです、やりますと言いながら手術台に寝転ぶと、先生がやってきて、麻酔前のあれこれをやり始めた。 怖いっすよねー、みたいな感じで気さくに話しかけてくれるので助かる。先生〜任せたぞ.........。
そうして、いよいよ麻酔。 チクッとして、グググっと、液体が入ってくる。痛い、痛い、痛すぎる!!!!!!!!!!!!!! なんだかんだ普通に麻酔痛いよ!!!!!!!!!!体感時間としては結構長い。最初の1分とかは耐えられるけど、蓄積してだんだん辛い。痛い。
ウッウッ、ウウ〜〜〜。情けなくてメソメソ泣けてきた。痛いし、なんなのコレ。私は普通に生まれてきただけなのに、なんで、下まつげが変に生えてるの......何も悪いことしてないのに......なんで生まれただけでこんなキツい思い.....エグっエグっ...。
「ウ〜〜〜もう本当情けない〜」と呟きながら耐えていたら「?何がですか?普通にすごいですよ、頑張りましょうね〜」と、先生が励ましてくれた。 めちゃくちゃ良い先生すぎる〜、この先生に任せてよかった...。
すると、「好きな音楽でも流します?そうしたら気分も上がるでしょう」と、先生からすごい提案が飛んできた。 エッ!!??!?!?!!私の好きな音楽を、こんな大きな病院の先生が、流してくれるんですか!??!?!
「はい、私のiPhoneで流しますよ。ヘイSiri!...ヘイSiri!だめだ全然Siri起動しねえな。」
先生はSiriと格闘しているけど、私はどんな音楽を流すかの選定で頭の中がいっぱいだった。どうしよう。何がいいだろうか。ある程度TPOを弁えつつ、テンションが上がる曲。ウオオオオオオオオ
「起動した、はい。何の音楽がいいですか?」
「Elle Teresaでお願いします」
「はい、わかりました。ヘイSiri。Elle Teresa流して。」
Elle Teresa とは日本最高峰(私調べ)の日本のフィメールラッパーである。 そうして Elle Teresa が流れてくると、なんだか異質な空気感でたいへん面白く、確かに気持ちが楽になった。
目の下を切開する手術してきたんだけど、先生が「好きな音楽流して良いですよ」っていうから Elle Teresa 流してきた。ちゃんと歌詞も聴いてくれていて「今、小田原って言いました?」とか話しかけてきて面白い体験だった
— あすみ (@asumikam) 2026年6月9日
そのあとは、目の当たりで皮膚をジョキジョキ切られいそうだったり、ジジジと何かが焦がしてる雰囲気があったり、視界が真っ赤になったり、色々怖いことは行われていそうだったが、まあ耐えることができた。なんていったって、Elle Teresaが流れているのだから。
また、これまでのやりとりで、先生は私のパーソナリティを理解したらしく、手術がが終わるまでにかなりの雑談をふっかけてきた。
- 先生の学生時代、同級生の話
- 物理が意外と苦手だったという話
- 先生は病院に自分がいくのは苦手という話
- 先生の所属していた部活
- その部活のちょっと変わった先輩の話
- 先生の地元および、地元で活躍している有名人の話
- 医学部は意外とチャラチャラしているという話
- 小田原に病院が足りないという話
- 以前オペをした時に流した音楽
- 土日にiPhoneを替えにいったが、既存容量が多すぎて移行できなかった話
- iPhoneの既存容量が500ギガある話
- クソゲーにハマってる話
- 医者における診療科の比較
- 普段どんな処置をしているのかという話
思い出せるだけでも、これくらいの雑談をしてきた。めちゃくちゃ喋るじゃん、マジで本当にめちゃくちゃ色んな話を展開してきた。 こっちは「手術されている」という事実に脳のリソースが半分以上持ってかれているので、話半分にしか聞けなかったけど。
「それで⚪︎⚪︎⚪︎が△△△だったんですけど〜」
「ハハハ。あっ先生っ痛いっ」
「あーはいはい麻酔切れてきたね、少し足しますね〜、それでさっきの話の続きなんですけど〜」
といった感じで、もう、本当にずっと喋っていた。こっちはそれどころじゃないんだぞ!という気分になりつつも、逆にあのエンドレス雑談のおかげで怖さみたいなものが半減していたところはあるかもしれない。
そうして、3時間ほど経ち、ようやく手術が終わった。 長丁場だった。先生、本当にありがとう。
余談だが、待っていてくれた夫曰く、「耐えずずっと笑い声が聞こえていたので、何事かと思っていた」とのこと。
術後の経過
手術直後。麻酔が切れ始めてきて、ジンジンとして痛みがきつかった。これからどんどん痛くなるんじゃなかろうかと思って、帰宅しながらメソメソ泣く。鎮痛剤を飲み、数時間寝て目が覚めると、痛みはだいぶ引いていた。ただ、涙と血で視界はポヤポヤ。
手術後1日め。起きたら、昨日のような痛みは全然ない。アレっ。意外ともう痛みフェーズおわり?すんげえ美容医療をしているYouTuberを見慣れてしまっていたので、こんなにすぐ痛みフェーズが終わると思っていなかった。ラッキー。視界はややポヤポヤ。目にも少し痛さがある違和感。でも働けるくらいにはなっている。
手術後2日め。もう全然痛くない。なんなら、見た目も安定してきている。血はほとんどない。明日はもっと楽になっているんじゃなかろうかというワクワクがある。
手術後3日め。やはり痛みは全くないが、目の下が黄色っぽくなってきた。これが引く頃には抜糸の日になっていそうだな。今日、もらった抗生物質が飲み終わる日。
何より、まつ毛が目に入ってないので、起きた時の不快感がなくなっている。以前は、まつ毛が寝ている間も眼球を攻撃するせいか、起床後は目ヤニが大量に出ていた。それがないのである。生活していても、まつ毛が目に当たってイテッてなるやつが、ないのである。
おわりに
数十年、耐えるものと思っていた「不快要素」がなくなる。正直、実感がない。実感はないけど、なんだかとってもウキウキしている。 コレからの人生、かなり楽になるってことで良い????明るいハッピーライフが待っているってこと????????
タイトルに「(前編)」とつけたので、いつか「(後編)」を書くかもしれない。